2019年12月20日金曜日

電流帰還パワーアンプの製作 (3) 完成、測定

過去2回の記事で紹介してきたアンプをケースに入れました。
最初はタカチ MB30-12-20を使うつもりだったのですが、節約のためにもうひと回り小さいMB25-10-18(W250, H100, D180mm)に変更したらかなりギュウギュウ詰めになってしまいました。

前から
文字はテプラの透明なテープを使って入れました。

後ろから
入力はRCA2系統、3.5mmミニジャック1系統です。スマホにも手軽に接続できます。

上から
小さいケースですが、一応トランスがアンプ基板に与える影響を最小化するように配置を考えたつもりです。

左から
電源のすし詰め感がたまりません。一番好きなアングルかも


右から
左側と打って変わってスカスカです。

全回路図はこちら。



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さて、このアンプの右ch出力に8.2Ωの抵抗を接続して、いくつか測定をしてみました。
以下のオシロスコープ画像のすべてにおいて、黄色の波形がアンプへの入力、緑が出力です。

  • 矩形波応答


0.5Vppの10kHz 矩形波を入力して出力を見てみました。
オーバーシュートやリンギングは見られず、きれいな波形です。

  • 最大出力


最大出力電圧は45Vpp程度で、このときの入力は約5.9Vpp (2.1Vrms) でした。クリップさせたときの波形も素直で問題なさそうです。
最大出力は約30W@8Ωということにしておきましょう。

  • スルーレート


高速な矩形波を入れてスルーレートを見てみました。
大体100-120V/μs程度で、そこそこ速いほうではないでしょうか。

  • 周波数特性

FGとオシロスコープを組み合わせて周波数特性を測定しました。スペアナがあればいいのですが…


可聴域は特に問題なくフラットです。矩形波応答からも想像がつく通り、高周波でのピークも無さそうです。-3dB帯域はおおむね1.7Hzから800kHz程度です。
手持ちのFGの発振周波数が2MHzまでなので、残念ながらこれ以上の周波数は測定できませんでした。

  • 出力DCオフセット

DMMとパソコンを接続して2秒毎に20分間自動で測定・記録を行いました。


電源を入れた直後は-45mVほど出ているものの、3分程度で完全に落ち着き、以降はせいぜい2mV程度のぶれで収まっています。全く問題ありませんね。

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肝心の音質も良好のようで、長く使えるアンプになりそうです。

2019年12月13日金曜日

電流帰還パワーアンプの製作 (2) 周辺回路

前回の記事ではパワーアンプの回路を紹介しました。
今回は電源やスピーカー保護などの周辺回路を紹介します。

【電源】

18V 3A×2回路のトランスが偶然余っていたので、これを使って伝統的なトランス式の電源を作りました。ショットキーバリアダイオードブリッジを2個使って正負別に整流し、3300μF×14(計46200μF)の電解コンデンサアレーで平滑します。無負荷時の出力電圧は±25V程度になりました。



秋月電子で1個50円の激安電解コンデンサを使ったので、容量のわりに安上がりでした。基板の両面にコンデンサを実装することで面積を削減しています。

コンデンサの容量がこれだけ大きいと電源を入れたときの突入電流が心配なので、突入電流抑制回路を取り付けることにしました。電源投入直後は47Ωの抵抗を通じてコンデンサを充電し、しばらく後にマイコン制御のリレーで抵抗をバイパスするという回路です。
電源の2次側にあまり余計なものを入れたくなかったので、1次側に付けてみました。


電流制限用の47Ω抵抗には10Wのセメント抵抗を用いており、電源投入時には瞬間的に定格を超えることが予想されますが、まあ大丈夫だと思います(アマチュア特有のガバガバ設計)。リレーがONしてからは、抵抗での電力消費はほぼゼロになるはずです。
リレーは本来1回路で良いのですが、偶然2回路品の手持ちがあったので、ON時の接触抵抗を少しでも小さくしようと接点を並列にして使ってみました。ちなみに、リレーの接点を並列にしても開閉容量を2倍にはできないので要注意です(参考: オムロン, リレー接点を2個、並列に接続すると開閉容量は2倍になりますか?
 https://www.fa.omron.co.jp/guide/faq/detail/faq02765.html)。

【スピーカー保護回路】

アンプの故障で出力に大きなDC電圧が出てしまったときにスピーカーをアンプから切り離す回路が必要です。DC検出にはTA7317PやμPC1237HAなどのICを使う手もありますが、今回は少し違う方法を取ってみました。


アンプの出力に適当なCRでLPFをかけたあと、両極性型フォトカプラに入力します。アンプの出力にDCが出てくるとフォトカプラ内のLEDに電流が流れ、回路図中のDC_detect端子の電圧が下がります。
簡単かつ確実な回路で、入出力が絶縁されているのでBTLのアンプにも使いやすいです。フォトカプラの出力をさらにトランジスタで受けてリレーを駆動することもできると思いますが、今回はそうはせず、マイコンでDC_detect端子の電圧を見てリレーを制御します。
スピーカー保護リレーには、機械式リレーではなくMOS FETリレーを使いました。


MOS FETリレーの詳細については以前の記事(スピーカー保護用MOS FETリレーの製作と実験)を参照してください。

【マイコン】

Arduino Pro miniの中華互換品を使ってみました。1個300円ほどで買える便利なマイコンボードです。


このマイコンでは以下のような制御を行います。

  • アンプ出力のDC検出

上で紹介したフォトカプラによる検出回路の出力を監視します。デジタル入力ではなくアナログ入力(ADC)を使うことで、小さなDCオフセットも検出できます。

  • アンプ出力リレーの制御

電源を入れてから3秒後にONします。アンプ出力に異常なDCが検出された場合は即座にOFFして、再度電源を入れなおすまではONしません。

  • 電源の突入電流制限リレーの制御

電源を入れてから1秒後にONします。

  • パイロットランプの制御

正常動作時は点灯、ミュート時は低速点滅、異常検出時は高速点滅します。

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次回はアンプ基板と今回紹介した周辺回路をケースに組み込んでちょっとした測定を行います。

電流帰還パワーアンプの製作 (1) アンプ回路

サブシステムに使っているLM3886アンプを置き換えるべく、ディスクリートパワーアンプを自作しました。

回路図(1ch分)はこちら。せっかくなので最近流行の電流帰還アンプにしました。


素子数はそこそこ多いものの、定電流回路やカレントミラーを除いて考えるとそんなに複雑な回路ではありません。エミッタフォロワ→1段増幅→3段ダーリントンという構成です。ゲインは約18dBです。
電源電圧の変動を抑えるため、終段以外の電源にはリップルフィルタを設けました。
回路図左上のエミッタフォロワの定電流回路に付いている半固定抵抗RV1は出力のDCオフセット調整用、回路図中央のRV2は終段のバイアス電流調整用です。

この回路を2つ載せたステレオアンプのプリント基板を作りました。


サイズは秋月電子のB基板 (95×72mm) に合わせてあります。GNDの引き回し等の関係でどうしても1枚の基板に2chのアンプを入れたかったので、基板設計はかなり頑張りました。部品と配線をただ詰め込むだけでなく、電流の行き帰りを意識し、大電流の流れるライン(終段の電源や出力)が他の配線に与える影響をできるだけ小さくするよう配慮してあります。
スルーホール型のトランジスタは製造終了ばかりなので、SMDを積極的に採用しました。主に使っている2SC3324/2SA1312は、オーディオ用として有名な2SC2240/2SA970の同等品です。カレントミラー部にはデュアルトランジスタ(HN1C01FU/HN1A01FU)を使ってみました。
終段トランジスタのフットプリントはTO-220サイズですが、穴径をすこし大きくしたため上の画像のようにTO-3Pも使えるようになっています。リードフォーミングは少し面倒ですが…

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以下、試作の過程など。

こちらは試作1号機。


この1号機をいじくりまわしながら回路を固めました。度重なる改造を経て裏面もグチャグチャです。


次に試作2号機。PCBを設計し、何か別の基板に相乗りさせてPCBGOGOに発注しました。本来はこの2号機で完成のはずでしたが…


正常動作は確認したものの、パターンや穴径などどうしても修正したいところがいくつかあり、FusionPCBに3号機を発注しました。その3号機が最終版(上に紹介した基板)となりました。


次は電源やスピーカー保護などの周辺回路を紹介します。