2020年3月22日日曜日

AK4495 DACの設計と製作 (4) ケース組み込み・測定

AK4495 DACシリーズとりあえず最終回です。
これまでの記事:
AK4495 DACの設計と製作 (1) 構想
AK4495 DACの設計と製作 (2) DAC基板
AK4495 DACの設計と製作 (3) DIR9001 DAI基板

AK4495基板・DIR9001基板・CM6631A基板・電源基板・トランス2個をタカチのアルミケースYM-250に入れました。



まずは正弦波を見てみましょう。

AK4495 DACの設計と製作 (3) DIR9001 DAI基板

AK4495 DACシリーズ第3回、今回はDIR9001を使ったS/PDIF→I2S変換です。前回はこちら→AK4495 DACの設計と製作 (2) DAC基板
さっそく回路図です。

基板は秋月のC基板と同じサイズ(47×72mm)で作りました。ケース内の配置の関係上、低背にすることを心がけてみました(って、元々そんなに背が高くなる要素はありませんが)。ハンダ付けがやりやすいようにDIR9001用のパッドを少し長くしたら、長すぎてブリッジを起こしやすくなってしまい逆に難しかったです。過猶不及…


・S/PDIF入力
DIR9001はS/PDIF入力を1つしか持たず不便なので、4回路3ステートバッファの74VHC125を使った切替回路を付けて4入力を受けられるようにしました。

同軸ケーブルで送られてきたS/PDIF信号は、パルストランスで絶縁されたRCA IN端子(回路図左上)に入力されます。同軸ケーブルの特性インピーダンスに合わせて、トランスの2次側は75Ωで終端されています。この信号は0.5Vppしかないため、そのまま74VHC125に入力しても反応してくれません。しかし、わざわざ別のICを付けて増幅するのは面倒なので、図中のRV1とR2を使って適当な直流バイアスをかけてやり、74VHC125のスレッショルド付近まで信号を持ち上げることにしました。少々強引ですが、これで74VHC125がちゃんと信号に反応しバッファとして働いてくれるようになります。

RCA INの下のOPT INには光ケーブルで送られてきたS/PDIF信号を入力します。今回使った光受信モジュール(PLR135/T10)はきっちり電源電圧いっぱいの信号を出力してくれるので、バイアスをかけるような小細工なしに切替回路にぶちこめます。やったぜ。

・DIR9001まわり
DIR9001にS/PDIFを入力すれば、あとはほぼ何も考えなくてもI2Sが出てくる…というのは言い過ぎでしょうか。

DIR9001は出力フォーマットとMCLKの周波数をそれぞれ4通りの中から選択できます。全てピンヘッダとジャンパーピンで設定できるように基板を設計しました。

PLLのフィルタ部分(回路図のC2, C4, R3)には多少気をつかっており、チップフィルムコンデンサ(ECHU)と薄膜抵抗を使っています。また、データシートの指示通り、この部分のGNDは他の部品のGNDと混ざらないよう直接DIR9001のAGNDピンに戻しています。

24.576MHzの水晶が付いていますが、この水晶の発振を元に出力信号のクロックを生成するわけではないので、精度やジッタに気をつかう必要はありません。適当な安物でじゅうぶんです。

リセット端子(DIR9001のpin21)をプルアップする抵抗がないことに気付いた読者の方がいるかもしれません。この端子はDIR9001内部でプルアップされているので、これで問題ありません。

・電源
全て3.3Vです。DIR9001とそれ以外に分けて、NJM2863F33を2個使用しています。DAC基板と同様、チップフェライトビーズ(BLM18RK102SN1D)も多用しました。

・AK4495との組み合わせ
AK4495のデータシートにこんな記述があります。

「MCLK= 256fs/384fsのとき、Auto Setting Modeは32kHz~96kHzのサンプリングレートまで対応します。32kHz~48kHzのサンプリングレートでは、MCLK= 256fs/384fsでのDR, S/Nは、MCLK=512fs/768fsの時に比べて3dB程度劣化します。」

この情報は見逃せません。しかも、DIR9001のMCLKを512fsか768fsに設定すればいいだけの話ではないのです。というのも、下の表のとおり…

AK4495は、fs=88.2kHz以上ではMCLK=512fs/768fsに対応していないのです。
つまり、
fs=44.1kHz or 48kHzではMCLK=512fs
fs>48kHzではMCLK=256fs
と切り替えるのが良さそうです。これをDIR9001側で実現するのは、実は簡単です。
この回路を後付けするだけです。
fs=44.1kHz or 48kHzのときだけLになるFSOUT1をトランジスタで反転させ、DIR9001の内部でプルダウンされているPSCK1に接続します。PSCK0はHに固定しておきます。


こうすれば、上に挙げたように
fs=44.1kHz or 48kHzではMCLK=512fs
fs>48kHzではMCLK=256fs
が実現できます。
ただし、実はこの方法だとfs=32kHzのときにもMCLK=256fsになってしまうのですが、そもそもサンプリング周波数32kHzの音源など聞かないので無視していいでしょう(動作しないわけではありませんし…)。
ユニバーサル基板とSMDでコンパクトに実装してみました。

動作もバッチリです。

次回はDAC基板とDAI基板、さらに電源等を合わせてケースに組み込みます。
次回→AK4495 DACの設計と製作 (4) ケース組み込み・測定

2020年3月21日土曜日

AK4495 DACの設計と製作 (2) DAC基板

AK4495 DACシリーズ第2回です。初回はこちら→AK4495 DACの設計と製作 (1) 構想
今回は、この作品の根幹であるDAC基板を作ります。CM6631AとDIR9001からのI2S信号を入力しアナログ信号を出力する基板です。

こんな回路を考えました(回路図をクリックで拡大)。

回路図の高解像度版はこちらのリンクでご覧ください

・入力
CM6631AとDIR9001から送られてくる2系統のI2S信号を74AHC157(4回路2入力マルチプレクサ)で切り替えてAK4495に送り込みます。CM6631AからのI2S信号は、パソコンからのノイズを少しでも防ぐためSi8660で絶縁しておきます。

・出力
AK4495から出てきたアナログ信号はオペアンプによるLPFを経てバランス出力、あるいは更にオペアンプで差動合成されてアンバランス出力されます。LPFのカットオフ周波数は約150kHzとかなりユルめに設定してあります。

・制御
ATmega328P-AUというマイコンでAK4495とI2C通信を行い、デジタルボリュームやデジタルフィルタの制御を行います。ボリュームの制御には、電源電圧を可変抵抗で分圧しマイコン内蔵ADCに読ませるシンプルな方式を使いました。デジタルフィルタもシンプルに、ジャンパーピンでハードウェア的に設定できるようにしました。

マイコンを水晶ではなく約8MHzの内蔵CR発振で動作させたり、I2Cのプルアップをマイコンの内蔵プルアップ抵抗に任せたりして部品点数を少し削減しました。

・電源
DAC ICは3.3Vと5Vが混在、マイコンとアイソレータは3.3Vです。ノイズに気をつかうところにはNJM2863を使い、どうでもいいところ(マイコンなど)には普通の三端子レギュレータを使うことにしました。NJM2863は出力インピーダンスがあまり低くないため電流が激しく変動するような箇所には使いたくないのですが、ちょっと実験してみたところ音楽再生中のAK4495の消費電流変動はほぼ無さそうだったので大丈夫でしょう。また、いずれにせよ高周波ではレギュレータの能力にはあまり期待できないので、コンデンサによるデカップリングは重要です。DACまわりにはチップフィルム(ECHU)とチップタンタルを山盛りにしてみます。

オペアンプの電源は±15Vです。例によって「通電してみんべ」さん考案のディスクリートレギュレータを採用しています。


さて、正月休みに実家でDAC基板をせっせと設計して1月10日に発注し、なんとか春節直前に受け取ることに成功しました(今思えば、COVID-19の影響がひどくなる直前でもあった…)。


まずはAK4495とマイコンまわりだけ実装し、CM6631AからI2Sを流し込んでテストします。問題なく動作することを確認できました。

裏面にはゴツいチップタンタルコンデンサが並んでいます。耐圧には3倍以上の余裕を持たせて16V品を使っています。

次にオペアンプとその周辺の部品を実装し、再度テスト。


これも問題ありませんでした。どうも最近あまり失敗をしていません。新しいことにあまりチャレンジしていないからでしょう。いけませんね。

波形等のデータはケースに組付けた後にしっかり測定して公開します。
次回はDIR9001を使ってS/PDIFをI2Sに変換する基板について。
次回→AK4495 DACの設計と製作 (3) DIR9001 DAI基板

2020年3月18日水曜日

AK4495 DACの設計と製作 (1) 構想

以前サブシステム用にFN1241でDACを作りましたが、使っているうちに不満がいくつか出てきました。
・音量調整ができない
・ユニバーサル基板で作ったため配線が理想とは程遠い
・全体的に作りが雑でショボい()

そこで今回、これらの不満を解消しグレードアップするため、新しいDACを作ることにしました。
設計中の迷走を防ぐために、まず機器全体の要件を決めます。
・S/PDIF(同軸・光)、USB各1系統の入力
・バランス/アンバランス出力
・デジタルボリューム付き

DAC ICにはAKM(旭化成エレクトロニクス)のAK4495Sを使うことにしました。これは32bit DACなのでデジタルボリュームを使っても劣化が少なそうです。また、デジタルフィルタを切り替えて遊べるのも魅力ですね。などといいながら、実は一番の採用理由は「今までAKMのICを使ったことがなかったから」だったりします(アマチュア的発想)。
ちなみに、同社のDAC ICにはAK4490, 4493, 4497, 4499などもありますが、入手性や価格の面で折り合いませんでした。

さて、DAC全体の構成としては下図のようなものを考えました。


同軸、光、USBというスタンダードな3入力を備えたDACにします。DIR9001(家に3個余っていたので採用)はS/PDIF入力を1つしか持たないので、切替回路を外付けする必要があります。
出力はバランスとアンバランスを両方装備させて汎用性を高めたいです。当面はアンバランスしか使わないと思いますが…欲張り仕様ですね。
DIR9001とAK4495については、ユニバーサル基板ではなくちゃんとプリント基板を設計して製作します。CM6631Aの基板は自作ではなく、中国から来た怪しいボードを使用します。

では、さっそく次回の記事から製作に入りたいと思います。まずはAK4495基板からです。

次回→AK4495 DACの設計と製作 (2) DAC基板