2019年4月6日土曜日

FN1241 自作DAC

新潟精密のFN1241というチップを用いてDACを製作しました。
FN1241は「フルーエンシ型データ補完フィルタ」を内蔵した1bit DAC ICです。
この「フルーエンシ型フィルタ」、仕組みはよく分からないのですがリンギングが小さくパルス波形をきれいに出力できることが特徴のようです。矩形波が好きな方におすすめです。



1. DAIの製作

まずはSPDIF信号をFN1241が対応する形式に変換するためのDAI (Digital Audio Interface) を作ります。

TI製のDIR9001を使いました。SPDIFを様々な形式に変換して出力できる便利なICです。
回路図は下の通り。図中では電源のパスコンやレギュレータは省略しましたが、ローノイズが売りのNJM2863を使用しています。


おおむねデータシート通りの回路です。DIR9001は水晶を付けなくても動作しますが、SPDIF入力が無いときの動作が怪しくなるので付けることをお勧めします。
具体的に、水晶無しではどうなるかというと…↓


音楽再生を止めたときの状態でDACの出力がホールドされ、DCがダダ漏れになります。まあ、信号経路にカップリングコンデンサが入っていればこれでも大した問題にはならないので、水晶を省略するという選択肢もあり得なくはないでしょう。

また、これも回路図には載せていないのですが、3ステートバッファを使ったSPDIF入力切替回路を設けて4入力に対応できるようにしました(参考資料: DACのアナログ追求③SPDIF入力回路の検討, 通電してみんべ, https://ecaps.exblog.jp/21034485/)。


元々入力は光と同軸の2系統のつもりだったのですが、せっかく4入力に対応しているのでUSB入力を付けてみました。USB→SPDIF変換にはPCM2704を利用しました。



2. DAC基板の製作

FN1241をaitendoで買った変換基板にのせたところ。間違ってPCM2704のほうにピントが合ってますが…

いきなり回路図です。

図では電源部を省略していますが、DAC用にはNJM2863を3つ、オペアンプ用にはNJM7812と7912を使用しています。
FN1241の評価基板 EVB1241BではFN1241の出力をオペアンプ1個の差動合成で受けてそのまま出力しているのですが、その回路だとFN1241から見たオペアンプの入力インピーダンスに正負で差があるのがなんとなく気持ち悪かったので計装アンプ的な回路に変更しました。
FN1241の特性を生かすためにアナログフィルタはかなり緩めに設定しました(評価ボード のフィルタ特性とほぼ同程度)。
入力フォーマットはいくつか選択できるのですが、今回はI2SでMCLKは512fsとしました。

余談ですが、ネットに落ちているFN1241の仕様書には誤植がいくつか見られるので要注意です。例えば、検索してすぐに出てくるFN1241 Audio D/A Converter Specification Data Sheet Ver.001218(英語版)ではTHD+Nが0.002dBと書かれていますが、これは明らかに0.002%の間違いでしょう。また、Analog OutputのLoad Resistanceが最低100kΩとされていますが、これは手元の日本語版では100Ωになっています。

3. ケースに入れる


 いつも使っているタカチのYM-250です。中央のツマミは入力切替用。


入力は光・同軸・USBの3系統、出力はXLR・RCAの2系統です。メインで使っているアンプがバランス入力にしか対応していないので、私にとってはXLR出力は必須です。


内部はスカスカ余裕があります。

4. 測定

以下のオシロスコープ画像は全て無負荷のRCA出力を観察したものです。入力フォーマットは全て44.1kHz 16bitです。

インパルス(-3dBFS)

1kHz 矩形波(-3dBFS)

インパルスと矩形波はリンギングが小さくきれいです。


1kHz 正弦波(-3dBFS)

20kHz 正弦波(-3dBFS)

20kHzの正弦波ではフルーエンシ型フィルタの特徴的な波形が見えます。NOSの波形をなめらかにしたような形で、全く正弦波には見えません。高い周波数ほど波形が崩れ、10kHzあたりでも正弦波の形は若干怪しいです。

ちなみに…FN1241のデータシートにはサンプリング周波数48kHzまでの事しか書かれていませんが、実は96kHz 24bitの音源も特に問題なく再生できます。それ以上はDIR9001(DAI)が対応していないので試していません。

5. 試聴

オシロで波形を見たときはかなりノイズが多いなと思ったのですが、ほとんどが帯域外の高周波なので可聴域のSNは悪くありません。ツイーターに耳を当てても全くノイズは聞こえませんでした。一聴して思ったのは「思ったより普通の音だな」ということ(事前に20kHzなどのめちゃくちゃな波形を見ていたので…)。

ここから先は抽象的・主観的な評価なので話半分に読んでください。
よく聴くとやはり高域は特徴的なのですが、決して嫌な音ではなく艶があって悪くないと感じました。また、音の密度感が高いというのか、空間に隙間なく音が詰まっているような感じです。私が常用しているDAC(ES9016S)ではもっと音が空間中に散らばって点在しているような感覚があり、この部分の違いは大きく感じました。
これらの特徴が世間で「アナログ的」と呼ばれる所以なのでしょうか。ちゃんとしたアナログの音を聴いた経験がほぼないので分かりませんが…

FN1241はとっくにディスコンですが、まだ秋月で手に入ります。なかなか面白い音が聞けるので試してみてください。ただし、ピン数が多いのでユニバーサル基板で作るのはあまりおすすめしません。私は、プリント基板を起こせばよかったと若干後悔しながら作りました。

謝辞

FN1241の仕様書と評価基板の回路図を送ってくださったM様に感謝いたします。

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