ヘッドホンアンプには、買ってから2年ほど部品箱の肥やしになっていたTPA6120を使うことは最初から決めていました。TPA6120は電流帰還アンプなので尋常でなく高いスルーレート(typ. 1300V/μs)とVHF帯までフラットな周波数特性を持っており、そのスペックはとてもオーディオ用ICとは思えません。
ヘッドホンアンプで楽をする分、せめてI/V変換はディスクリートで組みたいと思っていましたが、回路を検討しているうちにだんだん面倒になってきてしまいました(いつものパターン)。とはいえ高周波ノイズを含むDACの出力を電圧帰還オペアンプに直接入力すると色々と問題があるかもしれませんし(考えすぎか)、何よりオペアンプI/Vなんてあまりにありふれていて何も面白くない…そして最終的に思い至ったのが「TPA6120にI/V変換も兼ねさせればいいのでは?」というアイデア。
製作途中の写真を撮り忘れたので唐突に基板が完成します。
DAC出力~ヘッドホンアンプまわりの回路図を、とりあえず片チャンネル分だけ。
重要なポイントをいくつか解説します。
・帰還抵抗
TPA6120では、帰還抵抗(=I/V変換抵抗)の値を自由に設定できません。もっとも、電流帰還アンプはどれもそうですが。
今回はデータシートの図を見て1kΩを採用しました。出力電圧との兼ね合いから本当はもう少し小さくしたいところでしたが、これ以上抵抗値を小さくすると発振の危険がありそうなのでやめておきました。
TPA6120の帰還抵抗と周波数特性の関係1)
今回はデータシートの図を見て1kΩを採用しました。出力電圧との兼ね合いから本当はもう少し小さくしたいところでしたが、これ以上抵抗値を小さくすると発振の危険がありそうなのでやめておきました。
・DCオフセット
この回路ではTPA6120の正入力端子をGNDに落としているので、DACの出力オフセット電流の影響によりTPA6120の出力電圧に-2VほどのDCオフセットがあらわれます。しかしバランス出力では、負荷(ヘッドホン)から見たDCオフセットはキャンセルされるので問題ありません。実際、バランス出力のDCオフセットは両チャンネルともに2mV以下です。一応オマケとして装備しているシングルエンド出力では、DCオフセットを出さないように出力カップリングコンデンサを使うことにしました。あくまでオマケなので、差動合成もせずDAC出力の片方だけを使うという適当さ…
TPA6120の正入力端子に適当なDC電圧をかければ、アンバランス出力でも出力カップリングCを省略できます。面倒なので私はやりませんが。
・発振防止策
データシートにもある通り、浮遊容量による発振を防ぐためには入力抵抗(下図中のRI)をICのごく近くに配置する必要があります。
しかしI/V変換にはふつうRIを用いませんし、今回の基板ではDACの出力ピンとTPA6120の負入力ピンの距離がどうしても長くなってしまうので発振の危険性が大きそうです。
そこで、入力抵抗の代わりとしてTPA6120の負入力端子のごく近くにチップフェライトビーズ(ムラタ BLM18RK102SN1)を取り付けてみました。この素子はDCやオーディオ帯域の信号はほぼ素通りさせますが、100MHzでは1kΩのインピーダンスを持ちます。これで実験したところ、発振は回避できました。
※後日、チップフェライトビーズをより効きの弱いもの(ムラタ BLM18PG121SN1, 120Ω@100MHz)に交換し、正常動作を確認しました。
TPA6120が発振しやすいレイアウト1)
しかしI/V変換にはふつうRIを用いませんし、今回の基板ではDACの出力ピンとTPA6120の負入力ピンの距離がどうしても長くなってしまうので発振の危険性が大きそうです。
そこで、入力抵抗の代わりとしてTPA6120の負入力端子のごく近くにチップフェライトビーズ(ムラタ BLM18RK102SN1)を取り付けてみました。この素子はDCやオーディオ帯域の信号はほぼ素通りさせますが、100MHzでは1kΩのインピーダンスを持ちます。これで実験したところ、発振は回避できました。
※後日、チップフェライトビーズをより効きの弱いもの(ムラタ BLM18PG121SN1, 120Ω@100MHz)に交換し、正常動作を確認しました。
→書きました。
TPA6120アンプの出力インピーダンスを下げる方法 (1) 文献調査
TPA6120アンプの出力インピーダンスを下げる方法 (2) 実験
・LPF
アナログLPFはTPA6120の入力に付いているチップフェライトビーズのみで、実質的には無いようなものです。私は特にLPF否定派などではないのですが、今回の回路構成ではうまくLPFを入れられないもので…(※例えば、帰還抵抗と並列にコンデンサを入れるのは電流帰還アンプではご法度)。まあ、ヘッドホンのユニットはフルレンジですから多少の高周波が入っても問題ないと思います。マルチウェイのスピーカーを鳴らす場合は、ツイーター損傷の危険性も無いとは言い切れないので念のためLPFを付けた方が安心ですね。
下のオシロ画面は実際の出力波形(無音時)です。
スパイク状のノイズはDAC ICから出ているものです。このノイズはかなり周波数が高いので、簡単な一次のLPFでもバッチリ除去できると思います。
続きはこちら。
ES9038Q2M DAC内蔵ヘッドホンアンプの製作 (3) ケース & まとめ
※2019年5月2日 記事内容にまとまりがなかったので大幅に修正しました。
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1) Texas Instruments Inc., TPA6120A2 High Fidelity Headphone Amplifier, http://www.ti.com/jp/lit/ds/symlink/tpa6120a2.pdf
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