ヘッドホンアンプ用ICであるTPA6120のデータシートには、出力端子に最低でも10Ωの抵抗を入れるようにとの指定があります。下の図中のROがそれです。
つまり、TPA6120を使って作ったヘッドホンアンプの出力インピーダンスは最低でも10Ωということです(※TPA6120自身の出力インピーダンスは0と見なす)。
ROが大きいと電力のロスが大きくなりますし、何よりヘッドホンの再生周波数特性が乱れます。音質にも多大な影響があります。10Ωでは高すぎるとまでは言えませんが、できればもっと下げたいものです。
ROを10Ω未満としても発振しなかったという報告はweb上でよく見かけますが、単にROを小さくするだけでは限界がありますし面白くありません。
すぐに思いついたのは、インダクタを使う方法です。オーディオ用パワーアンプの出力に1μH程度のインダクタと10Ω程度の抵抗を並列にしたものが入っているのをよく見ますが、あれと同じ方法がTPA6120にも使えるのではないかと考えました。
まあ私ごときが思いつくようなことはとっくに誰かがやっているもので、少し探すと先例が見つかりました。まず有名なNwAvGuy氏の記事です。
QRV09 DIY Headphone Amp
http://nwavguy.blogspot.com/2011/06/qrv09-diy-headphone-amp.html
NwAvGuy氏はこの記事の中で、TPA6120の出力インピーダンスを下げるためにいくつかの方法を試したと書いています。最終的に氏はチップフェライトビーズ(120Ω@100MHz, 以下チップFBと表記)と10Ωの抵抗を並列に接続したものをROの位置に取り付けたのですが、その実験の過程に記されていた重要そうなことをいくつか抜き出して訳してみました。
・チップFBと並列になっている10Ωは共振を減衰させるためのもの
・チップFB挿入により歪率が約2倍に悪化した
・空芯コイルはチップFBより歪率が低いがリンギングを発生させる
・チップFB採用の決め手は再現性、そして矩形波応答の良さ
もう私の記事はこれで終わりでも良いかもしれません。ありがとうございました。
ちなみにNwAvGuy氏が使っているチップFBはLaird社のHI0805O121R-10というものですが、秋月で簡単に手に入る同等品として村田のBLM18PG121SN1があります。
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さて、更に似たような例をもうひとつ見つけました。Stoner AcousticsなるメーカーのUD125並びにUDXAというアンプ。公式とみられるFacebookに以下のような記述がありました。
"The TPA6120 is traditionally designed with 10 Ohms of Output Impedance, however, this is not the case with the TPA6120 used in the UD125 and UDXA!意訳すると、
The UD125 and UDXA has a ~0.1 Ohms of Output Impedance, due to a different design architecture used."
引用元: https://www.facebook.com/StonerAcoustics/posts/output-impedancethe-tpa6120-is-traditionally-designed-with-10-ohms-of-output-imp/2315122445169288/
「TPA6120は出力インピーダンス10Ωで設計されるのが普通だが、ウチのUD125とUDXAはワケが違うぜ!違う設計手法で出力インピーダンスを約0.1Ωに抑えたんだ」
といったところです。ふざけてすみません。
さらに同アカウントの投稿を漁るとTPA6120が載った基板の画像が見つかりました。その出力には2つの素子が並列に接続されており、それぞれの脇にRとLというシルク表記が見えることから、NwAvGuy氏と同様に抵抗とフェライトビーズ(あるいはインダクタ)を並列接続しているものと思われます。
次回はこの2例を踏まえて少し実験してみます。
次の記事↓
TPA6120アンプの出力インピーダンスを下げる方法 (2) 実験
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