TPA6120のデータシートでは出力と直列に10Ω以上の抵抗を入れるよう指定されていますが、そこを何とかして出力インピーダンスを下げたいという記事。ES9038Q2M DAC内蔵ヘッドホンアンプのための実験なので、事実上この記事↓の番外編です。
今回実験に使う回路はこちら。反転増幅です。
まず前回の記事で見たNwAvGuy氏の実験について復習しておきます。
- ROを10Ω//チップフェライトビーズ(120Ω@100MHz)とすると、RO=10Ωの時より歪率が悪化したが、矩形波応答はきれいだった
- ROを10Ω//空芯コイルとすると歪率は低いがリンギングが生じた
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ということで、まず歪率重視で空芯コイルを試してみて、あまりにリンギング等がひどければチップフェライトビーズを使うことにしました。
空芯コイルとしては、0.65mmのUEWを直径約10mmで5回巻いたものを用意しました。100kHzでのインダクタンスの実測値は0.3μHです。
ガバガバ実装。10Ωの抵抗は基板の裏です。
以下、波形です。
・空芯コイルなし
RO: 10Ω負荷: 47Ω//2200pF
10kHz 矩形波
・空芯コイルあり
RO: 10Ω//0.3μH 空芯コイル負荷: 47Ω//2200pF
10kHz 矩形波
RO=10Ωの時より出力インピーダンスが下がったため出力電圧が上がっています。また、NwAvGuy氏の記事にあった通りリンギングが出ています。しかし、この程度なら許容してもいいのではないでしょうか。負荷の容量を小さくすればリンギングも小さくなりますし(この実験の負荷容量は実際の条件よりかなり大きい)、そもそもこの空芯コイルによるリンギングよりDAC自身の出力波形のリンギングのほうがはるかに大きいからです。
DACの出力のリンギング(ES9038Q2M linear phase fast roll-off filter)
ということで、リンギングは問題になるほどではないので空芯コイルを採用することにしました。
・音質
上記の通りES9038Q2M DAC内蔵ヘッドホンアンプに使ってみました。使用ヘッドホンはAKG K712PRO(バランス化改造済)です。
このヘッドホンアンプを作ってからしばらくはRO=10Ωで使っていたので、空芯コイル取り付け前後での音の変化はよく分かりました。元々はどちらかというと優しい(悪く言えばゆるい)音だったのが、空芯コイル取り付け後はかなりシャープになりました。心なしか音の広がりもよくなったように思います。
TPA6120について時々耳にする「ゆったりした音」「ぬるい音」などの評価は、もしかすると出力に付けた抵抗のせいだったのかもしれません。
・最後に
この記事で紹介した回路は、TPA6120の開発製造元であるTexas Instruments社の推奨しているものではありません。自作品等に採用される際は自己責任でお願いします。
本実験中に発振し惜しくも帰らぬ石となった1個のTPA6120に哀悼の意を表します。
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