2019年11月10日日曜日

スピーカー保護用MOS FETリレーの製作と実験

オーディオアンプの出力には、アンプの異常動作からスピーカーを保護するためのリレーが大抵付いています。しかし、リレーは機械的に動作するスイッチですから、経年劣化で次第に接触抵抗が上昇していくことは避けられません。スピーカー保護リレーの劣化により、音質が低下するどころか最終的には音が出なくなってしまうということもありえます。
また、リレーというのは案外消費電力が大きく、例えばHSIN DA PRECISIONのパワーリレー 942H-2C-5DSは定格電圧5Vでコイル抵抗47Ωですから電流は100mAを超え、約0.5Wもの電力を消費することになります。当然、マイコンから直接駆動することはできません。

こういった機械式リレーの欠点を解消できるのが、半導体であるMOS FETを用いた無接点スイッチです。近年のMOS FETの中には非常にON抵抗の小さいものがあり、適切に品種を選べば機械式のリレーより抵抗を小さくすることができます。オーディオアンプのスピーカー保護リレーの代替としては、アキュフェーズが積極的に採用しています。
MOS FETリレーの欠点としては、FETの端子間容量によりOFF時でも高周波が筒抜けになってしまうことや、一般に機械式リレーより耐圧が低いこと(ON抵抗と耐圧はトレードオフ)などがあります。

【設計】

ということで、私も次期自作アンプ用にMOS FETを使った無接点スイッチを作ってみることにしました。以下のようなスペックを目指します。

  • マイコンで直接制御できる
    • 5V, 10mA以下を目指す
  • 回路のどこにでも自由に接続できる
    • 制御信号とFETの絶縁
  • 低いON抵抗
    • 10mΩ以下を目指す
  • リレーと同等以上の高速ON/OFF
    • スピーカー保護の観点から特にOFFの速さは重要
    • 10ms以下を目指す

これらの条件を満たすために考えた回路がこちら。


スイッチングには秋月電子で購入できるNch MOS FET RJK0328DPB-01を2個使用します。ドレイン-ソース間電圧が最大30Vと低めなのが若干不安ではありますが、VGS=10VでRDS(ON)=1.6mΩ typ.というスペックを持つFETです。
OFF時に寄生ダイオードを通じて電流が流れるのを防ぐため、FETはいわゆるBack to Back接続(寄生ダイオードのアノードどうしが接続される)になっています。

FETのゲート駆動にはフォトボル出力フォトカプラ TLP590Bを用い、制御信号を絶縁します。これでFETをONするのは良いのですが、問題はOFFするときです。TLP590Bは出力インピーダンスが非常に高く(数百kΩ)、FETを速くOFFしようとゲート・ソース間に抵抗を繋ぐとON時のVGSが足りなくなってしまいます。

そこで、回路図中のU2A (TLP4227G-2) を用いてOFF時にゲートの電荷を素早く抜くことを思いつきました。これはノーマリクローズという変わり者のフォトリレーで、入力側がOFFのとき出力がON (オン抵抗最大25Ω) 、入力に電流を流すと出力がOFFになります。機械式リレーでいうところのb接点ですね。データシートによればOFF時の二次側の電流は最大1μAということで、これならTLP590Bに負担をかけることも無いでしょう。

TLP590BとTLP4227G-2は直列接続になっており、5V動作のマイコンから470Ωの電流制限抵抗を通じて駆動します。このとき流れる電流は5mA程度です。

ちなみに、TLP590Bに与える制御信号の位相を反転させればTLP4227Gの代わりに安価なノーマリオープンのフォトカプラを使えるではないか…と言われればその通りなのですが、その方式には

  • 制御信号が2種類必要になり回路が複雑化する
  • 何らかの異常により制御信号が完全に失われた場合、ゲート電荷を抜くフォトカプラが動作せずFETがすぐにOFFしない(フェイルセーフの観点から望ましくない)
という欠点があるので採用しませんでした。

【製作】

上記の回路で2ch MOS FETリレーの基板を作ってみました。いつも通りKiCadで設計し、PCBGOGOで他の基板と合わせて発注したものです。両面基板でサイズは約53mm×32mm, 厚さ1.6mm, FR-4, 銅箔1oz, 表面処理HASL (有鉛) 。


画像でTLP4227G-2の手前に並んでいるのが入力端子です。8個も端子があるのはTLP590BとTLP4227G-2を別々に制御できるようにしてあるためですが、実際は基板の裏側のジャンパー設定により上の回路図の通りTLP590BとTLP4227G-2を直列接続して使うことになります。
TLP590Bの上に見える16個のスルーホールには特に意味はありません。場所が余ったのでユニバーサル基板風にしてみただけです。

【測定】

制御信号としてArduinoから5Vを入力して行った測定では、ON時の抵抗が0.004Ω@1kHz, 10kHz, 100kHzでした。FETのデータシートによるとON抵抗は3.2mΩ(=1.6mΩ×2)となるはずなので、この測定値はおおむね妥当でしょう。また、このときゲート・ソース間電圧はぴったり10Vでした。OFF時の入出力間容量は約1750pF@1kHzでした。


適当なセメント抵抗を負荷にして1A程度の電流を流し、オシロスコープでON/OFFにかかる時間を測定してみました。制御は上と同じくArduinoです。
黄色が制御信号、緑が出力です。


制御信号が来てから3.5ms程度で出力が完全にONしています。


立ち下がりは速く、制御信号のOFFから0.15ms程度で出力が完全に切れています。良いですね。

次に、FETがONになっている状態から制御信号を(0Vではなく)オープンにして出力が切れるまでにかかる時間を確かめました。制御側の異常を想定した実験です。


制御が効いている時と同等の0.15msでバッチリ切れています。フォトカプラの一次側にプルダウン抵抗などを付ける必要は無さそうですね。

【まとめ】

最後に、上に挙げた目標スペックを振り返ります。
  • マイコンで直接制御できる
    • 5V, 10mA以下を目指す→達成 (5V, 5mA)
  • 回路のどこにでも自由に接続できる
    • 制御信号とFETの絶縁→達成
  • 低いON抵抗
    • 10mΩ以下を目指す→達成 (約4mΩ)
  • リレーと同等以上の高速ON/OFF
    • スピーカー保護の観点から特にOFFの速さは重要
    • 10ms以下を目指す→達成 (ON: 3.5ms, OFF: 0.15ms)
ということで、大体狙い通りのものができたのではないかと思います。

あとはアンプ基板の到着を待つのみ…

2019年11月5日火曜日

レーザーポインターの製作

スライドを使ってプレゼンをする機会が多く、レーザーポインターが欲しくなったので作ってみました。
調べてみるとCDプレーヤー用のレーザーなどを使った強力なレーザーポインターを作っている人もいるようですが、今回は安全重視で市販のポインターと同等の1mW (JIS クラス2相当) のレーザーを用います。
小型化と軽量化のため、単3電池1本で動作させることにします。今回使用するレーザーモジュールは3-5Vの電源を必要とするので、昇圧回路を使います。

材料

全て秋葉原の秋月電子で購入できます。バラ売りしていない部品もあるので、1個だけ製作する際の価格は下の表より高くなることに注意してください。


品目価格 (円)
赤色レーザーモジュール380
昇圧IC HT7733A50
インダクタ 100μH10
ショットキーダイオード 1S420
電解コンデンサ 22μF 10
タクトスイッチ10
単3x2 電池ボックス80
合計560

製作

フタ・スイッチ付き 単3x2本の電池ボックスに電池を1本だけ入れ、余った空間に昇圧回路とレーザーモジュールを組み込みます。

まず、下の画像のように電池ボックス内の端子を外します。電池ボックスの内蔵スイッチに取り付けられているバネ端子 (-極) はそのまま残しておきます。


赤い線が付いた+極用の端子を、外さず残しておいたバネ端子の向かい側にはめます。赤い線の向きが合わず付け直しました。


次に、端子が取り除かれ空きになった部分にレーザーモジュール用の穴を開けます。直径6mm程度です。
また、ユニバーサル基板をケースに入るサイズに切っておきます。厚さ1mm以下の基板ならカッターナイフで簡単に切れます。


さて、肝心の回路ですが、下図の通りごく簡単なものです。


乾電池1本の電圧 (1.5V) をHT7733Aで3.3Vに昇圧してレーザーモジュールに供給します。このレーザーモジュールは定電流回路を内蔵しているので、3.3Vを直接入力しても問題ありません。
昇圧回路の手前にタクトスイッチを設け、これを押している間だけレーザーが照射されるようにします。電池ケースに付いているスライドスイッチはタクトスイッチと直列に接続し、カバンやポケットの中で勝手にレーザーが出ないようにする安全装置として働きます。
この回路を先ほど切ったユニバーサル基板上に組んで電池ボックス内に固定したら完成です。レーザーモジュールはケースには固定されておらず、基板に付いているだけです。


基板固定用とタクトスイッチ用の穴をそれぞれ開ける必要があります。現物合わせで適当に作業したら位置がズレて、スイッチ用の穴が巨大になってしまいました。



ごく普通のレーザーポインターとして使えます。


レーザー光線を直視したり、人に向けたりしてはいけません。また、本記事の内容によって生じた損害等の一切の責任を負いかねますので、ご了承ください。

ネットワークオーディオプレーヤーの製作 (6) まとめ・実際の使用感など

これまで5回にわたって連載してきたネットワークオーディオプレーヤーの製作記事も今回で一旦終わりです。

全回路図はこちら。


全体を上から見た画像。


ケースはタカチのYM-300です。かなりぎゅうぎゅう詰めになりました。
RasPiのまわりは気休め程度にアルミ板でシールドしてあります。


さて、実際の使用についてです。
RasPiを無線LANで自宅のネットワークに繋ぎ、同じネットワーク内のPCから http://volumio.local/ にアクセスしてプレーヤーを操作できます。
スマホからも同様に使えますが、アプリを使った方が便利です。OpenHome規格に対応したアプリをAndroidスマホでいくつか試してみた結果、オーディオ機器メーカーであるLINNが開発したKazooというアプリが気に入り常用しています。BubbleUPnPも良いのですが無料版は制限が多く、まともに使うには有料ライセンスが必須ですね。

音質はスッキリしていて、以前使っていたPioneer N-70Aより良いように感じました。