2017年10月14日土曜日

オーディオ用DACの出力波形を観察する

音源のサンプリング周波数やDACの設定によってDACの出力波形がどのように変化するか気になったので、早速実験で観察してみました。

実験装置の概要図は以下の通りです。

まずパソコンにインストールしたWaveGeneという信号発生フリーソフトで1kHzの矩形波を発生させ、USBケーブルでDAC(Pioneer N-70A(改))に送ります。
DACの出力は0.6mのRCAケーブルで取り出し、そのケーブルを10kΩの抵抗(アンプの入力インピーダンスを想定したもの)で終端します。その抵抗の両端にオシロスコープのプローブ(x10)を取り付けて測定します。
DACの型番末尾の(改)の由来は、出力カップリングコンデンサをバイパスする改造を施してあることです。

1. サンプリング周波数

まずは音源のサンプリング周波数を変えてみました。
音源のビット深度は以下全て16bitで、DACの設定はデジタルフィルターがSHORT, ロックレンジが4, DIRECTモードです。(※24bitも試してみましたが、今回は大きな信号を使っているためか全く違いが出ませんでした。微小信号でテストすれば違いが観測できるかもしれませんが…)

1.1  44.1kHz

Rise Time=29.00us, Overshoot=24.08%
けっこうリンギングが激しいですね。


1.2  96kHz

Rise Time=14.50us, Overshoot=23.55%
リンギングは少し落ち着いて、立ち上がり・立ち下がりが鋭くなりました。
※上の画像(横軸100us/div)ではRise Timeが読めないので、横軸を20us/divに変えて表示された値を記しました。以下同じ


1.3  192kHz

Rise Time=7.300us, Overshoot=21.68%
ますます理想の矩形波に近づいています。


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2. デジタルフィルター

N-70Aでは、3種類のデジタルフィルターを選ぶことができます。
N-70AのDAC IC(ES9016)のデータシートは公開されておらず、それぞれのフィルターがどんな特性になっているのかはよく分かりません。
というわけで、このデジタルフィルターを変えて波形を見てみましょう。
サンプリング周波数は44.1kHzに戻します。

2.1 SHORT(これまでと同じ)

Rise Time=29.00us, Overshoot=24.08%
矩形波をアナログのDCアンプに通したような自然な波形です。17kHz(多分)のリンギングがあります。


2.2 SHARP

Rise Time=8.600us, Overshoot=15.61%
21次の高調波(21kHz)がはっきり見えています。それより上の周波数はスパッと"SHARP"に切られているようです。立ち上がりはSHORTよりも大分速いですね。


2.3 SLOW

Rise Time=7.800us, Overshoot=12.33%
リンギングが少なく、立ち上がりは最も速いです。
SLOWというのはフィルタの特性がなだらかという意味なんでしょうね。

---〈試聴〉---
この実験のあとで、改めて3種類のフィルタを切り替えながら比較試聴をしてみました。
音源はNASに保存したNorah Jonesの"It's A Wonderful Time For Love"(44.1kHz 16bit)で、設定はDIRECTモード・ロックレンジ2としました。
SLOWは柔らかくやさしい音、SHARPはガッチリと芯がある硬質な音、SHORTが最も特徴のない音に聞こえました。試聴の感想が波形を見て受けた印象と違っていておもしろいです。
何度か聞き比べをしていたら、画面を見ず適当にリモコンでフィルターを変えてから聴いてもどのフィルタを使っているかわかるようになりました。
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3. アップサンプリング

最後に、アップサンプリングを試してみます。「最大384kHzまでサンプリングレートをアップさせることができる」機能だそうです。

3.1 アップサンプリングON

Rise Time=18.50us, Overshoot=13.28%
比較対象は2.1の画像です。
このときのフィルターはSHORTなのですが、SHARPを選択した時と似た波形になりました。
19次の高調波(19kHz)が見えています。

---〈試聴〉---
上と同じ音源、ロックレンジ4・SHORTフィルターでアップサンプリングの有無の比較試聴をしました。
アップサンプリングをONにすると多少音がおとなしくなったような印象を受けました。
波形からはSHARPフィルターと似た音が予想されましたが、またしても違う感想になりました。まあ、試聴の感想には機器以外の要素(筆者の体調など)も関係してくるので話半分に読んでください。

ちなみに、デジタルフィルター試聴時と同じロックレンジ2のままでアップサンプリングを使うと音がブツブツ途切れました。アップサンプリングを使うためにロックレンジを大きくする必要がある(=音がボケる)というのは残念であり、それだけでアップサンプリングを使う意義が薄れてしまう気がします。
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さて、実験はこれで終わりです。
サンプリング周波数による波形の違いは大体予想通りでした。
一方、意外に思ったのは、波形の立ち上がりが最も速いSLOWフィルターの音が柔らかく聞こえたことです。聴感上の立ち上がりの速さと波形の立ち上がりの速さは別物なのでしょうか。

今回は矩形波だけでしたが、インパルスを与えて出力波形を見てもおもしろいかもしれません。


2017/10/15 コメントを受けて、bit深度の影響とアップサンプリング使用時の試聴結果について加筆

2 件のコメント:

  1. 非常に面白いです。
    アップサンプリングは聴感上はどうなんでしょう?波形からするとデジタルフィルタをSHARPにした場合と似ているのでしょうか?
    ビット深度の変化も波形で見えるのかも興味あるところです。もし、お時間があれば^^;

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  2. コメントありがとうございます。
    アップサンプリングをONにすると音が少々おとなしくなったような印象を受けました。SHARPフィルターともまた違う感じですが、わずかな変化なので自信がありません。
    ビット深度は波形には影響ありませんでした。今回の実験では矩形波を最大に近い音量で入力しているからかもしれません。入力をマイナス数十dBしぼると違いが出るのではないかと思っています。

    ※jh4vajさんのコメントを受けて、記事本文にもほぼ同様のことを先ほど書き加えました。

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