テルミンは1919年にロシアで発明された世界最古の電子楽器です。
本体に手を触れず、空間中で手を動かすことによって音程と音量を制御します。
現代ではマイコンと距離センサがあれば似たようなものが簡単に作れると思いますが、今回はあえてアナログ回路で伝統的テルミンを作ってみることにしました。
さて、距離センサを使わないならば空間中の手の動きをどうやって検知するのか?
言われてみれば簡単なことで、高周波発振器を使います。
高周波発振回路にアンテナを付けてその周囲で手を動かすと、静電容量の変化によって発振周波数が若干動きます。この周波数変化を使って音程や音量を変化させるのが伝統的なテルミンです。単純そうに見えるテルミンですが、実は中身は高周波回路なんですね。
というわけで、まず音程制御部からです。
約455kHzの発振回路が2つあります。ひとつはセラミック発振で、もうひとつはLC発振です。
セラミック発振の周波数は固定されているのですがLC発振器にはアンテナが付いており、これに手を近づけると静電容量によって発振周波数が若干下がります。
この2つの発振器の出力をNJM2594というIC(DBM)に突っ込んで、2つの発振周波数の差の周波数を取り出します。これがテルミンの音の周波数になります。
例えばセラミック発振の周波数が455kHzでLC発振の周波数が453kHzだった場合、
455-453=2kHzの音が出るという具合です。
では具体的に回路を見ていきます。
まずはDBMまわりからです。
DBMの電源には、あらゆる箇所で使われているLPF(ローパスフィルタ: 上の図中のR7とC7)に加えてダイオード(D1)が入っています。これは電源電圧をDBMの推奨動作条件[1]の範囲内まで落とすためです。
DBMの入出力インピーダンス整合は特にやっていませんが、動作に問題はありませんでした。
また、DBMへの入力は5pin(セラミック発振側)を600mVpp以下, 7pin(LC発振側)を100mVpp以下に抑えたほうが良いようです[2]。セラミック発振側の電圧についてはIFT(T2)のコアを適当に回し、あえてIFTの共振周波数を外してやることで調整できます。邪道ですね。
またLC発振側については、おかしなIFTの使い方をしています(上の図中のT1)。ここではIFTの共振は非常にブロードで、単なる降圧トランス的な働きになっています。ますます邪道感が高まってますね。このIFTで発振回路の出力を大体100mVppに落としています。
音程制御部はだいたいこんな感じです。
次に音量制御です。
ここでは、周波数の変化を抵抗値の変化に変換する回路が必要になります。
まず、周波数変化を電圧変化に変換するため下の図のような回路を作ってみました。
LC発振回路がひとつあります。周波数は470kHz程度です。音量制御部の発振器と同様にアンテナが付いており、手を近づけると発振周波数が下がります。
発振回路の出力にはBPF(バンドパスフィルタ)が付いています。三端子のセラミックフィルタを使いたかったのですが、適当な周波数のものが入手できなかったのでセラミック発振子とコンデンサ2個を使って構成しました。
さらに、BPFの後に倍電圧整流&平滑回路を設けてBPFの出力を直流にします。
ここまでで、発振周波数の変化が直流電圧の変化に変換される回路ができました。
電圧変化を抵抗値の変化に変換する部分については次回の低周波編で書きます。
【注意】
音量制御と音程制御の発振周波数を同じにすれば定数がそのまま流用できて楽ですが、やめたほうが良いようです。私も最初は両方455kHzにしたのですが、引き込みが起こって音程と音量が常に同時に変化するようになってしまいました。
なお、この引き込みはアンテナ経由で起こるようで、どれだけ基板上のセパレーションを良くしても意味がありません。
次回は低周波部についての記事です。
【参考資料】
[1] NJM2594 データシート
https://www.njr.co.jp/products/semicon/PDF/NJM2594_J.pdf
[2] 電子うさぎ NJM2594を検証してみた!使えるDBMまとめ
https://xn--p8jqu4215bemxd.com/archives/2229
【続き】
テルミンの設計と製作(2)低周波部
テルミンの設計と製作(3)エフェクター部
テルミンの設計と製作(4)完成
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